2013年05月18日

リース設備投資損失保険(成長戦略第2弾)

「設備投資、リース活用促す 首相が17日に成長戦略第2弾」(日本経済新聞2013.5.17)
「首相、企業の投資喚起に意欲示す 成長戦略第2弾(概要)」(日本経済新聞2013.5.17)

(記事一部引用)
 政府は設備投資の拡大に向け、企業の財務負担が軽くなるリースを活用した支援制度を来年度にも新設する方針を固めた。民間リース会社が企業に設備を貸しやすくする保険制度をつくる。事業の失敗で企業に貸した設備の価値が予想以上に下がり、損失が発生した場合は国が一部を負担する。成長戦略の第2弾の目玉として安倍晋三首相が17日の講演で表明する。
 2012年の民間の設備投資額は63兆円。政府は3年後にリーマン・ショック前の70兆円超に戻す目標を掲げる。今回の支援策はその柱となる。
(引用終わり)

(記事一部引用)
最先端設備への投資を促すため、設備の稼働状況に応じリース費用を可変的なものにするなど、リース手法を活用した新しい仕組みを導入
(引用終わり)


通常、企業が工場などの設備投資をするときは、自己資金と金融機関借入により投資資金を調達し、工場生産から生じるキャッシュフローから借入金利支払いや元本返済を行い、その残りが企業の留保利益となります。
したがって、その工場が生産する製品が競争力を失ってキャッシュフローを生まなくなったときは、利払いや元本返済が困難になり、回復の見込みがなければ工場を閉鎖したり売却して生産を終了し、結局、その設備投資は損失、失敗に帰したということになります。
これがまさに投資リスクであり、設備投資の判断はまさに経営そのものともいってよいところです。

本タイトルは勝手に付したものですが、報道の内容からすると、企業が経営判断の失敗の結果被るべき投資損失を保険でカバーする仕組みを設けるようです。推測すると、以下のようなものでしょうか。
例えば、ある医療機器メーカーが最先端の医療機器生産工場(投資額1000億円)を作ろうと判断しますが、工場自体はリース会社が取得し、リース会社がメーカーにリースする形になります。メーカーの事業計画では、今後10年間、毎年150億円の営業キャッシュフローを生むとの見通しで、リース会社もそれを妥当と判断し、リース期間10年、年リース料120億円のリース契約を締結します。ところが、実際に稼働を始めると、まもなく新興国企業に技術レベルで追いつかれて競争力を失い、この工場は年50億円しか営業CFを生まなくなります。そうするとメーカーはリース料を払えなくなりますが、今回の保険制度では、このリース料は可変的なものとされており、すなわちリース料が引き下げられることになるようです。これによりリース料は年50億円に引き下げられ、メーカーは一応工場生産を続けることができます。他方、リース会社はリース料収入が減少し、その分の損失を負担することになりますが、この損失分の一部について保険金が支払われることになります。保険金の原資は、各リース会社があらかじめ支払う保険料(おそらく国も拠出)により賄われます。

報道では、リース期間終了後の残存価値のマイナス分を保険金で賄うケースが記載されており、上記のようにリース期間中のリース会社の減収分については不明であり、以上はあくまで推測ですが、リース料を稼働率に応じて可変的にしながらその減収リスクをリース会社のみに負わせるのでは仕組み自体成り立たないので、リース期間中のリース料の減収分の一部も保険でカバーされるものと考えるのが通常といえます(正式なスキーム公表を待たなければなりませんが)。
これは平たく言えば、本来投資判断にリスクを負うべきメーカーは判断の失敗による損失を負わず(全くではないのでしょうが)、そのリスクはリース会社を通じて最終的には保険に移転されるという仕組みといえます。

しかし、保険とは本来、生命保険や火災保険、自動車保険のように、必ず一定の割合で発生しうる事象(リスク)について、1回の事象発生から生じる大きな損失を、等しくその事象に直面する可能性ある集団であらかじめ広く分散して負担しておくという仕組みをいい、同じリスクという言葉でも、投資リスクのようなリターンの裏返しとしてのリスクとは性質が異なります。このような投資リスクを保険でカバーしようとすると、通常、いくら判断を失敗して損失を出しても(すべてではないものの)保険でカバーされるとの考えから、ハイリターン狙いのハイリスク投資が行われやすくなり(モラルハザード、逆選択)、保険制度の持続は難しいものとなります。

設備投資は企業経営の根幹で、まさに経営判断事項ですから、リターンを追い求める経営者が自らリスク判断し、その結果の当否についても責任を負うというのが通常です。そのような経営リスクまで国や保険が面倒を見るとなると、誰でも経営できてしまうことになり、逆に有能な経営者がやる気をそがれてしまうという指摘も想定されるところです。

昨年末の大みそかに日経新聞一面で
「公的資金で製造業支援 工場・設備買い取り 官民、5年超で1兆円」(日本経済新聞2012.12.31)
という記事が出て、これはさすがに筋が悪すぎて成案化しないとみられましたが、形を変えて似たようなスキームが今回発表されました。
こういう護送船団的、セーフティネット的な政策よりも、有能な経営者や企業がリターンを求めて積極的にリスクを取って投資し、競争に勝ってそれに見合ったリターンを得る、そのための必要な資金(リスクマネー)は市場や銀行がそのリスクリターンを見極めて供給する、という当たり前の仕組みの方が成長に資すると一般的にはいえます。保険をあてにした企業が次々と巨大工場を作ったはよいが、競争に負けて稼働できない工場がたくさん残ってしまうというのでは意味がないところです。
posted by kinyu-bengoshi at 11:34| 日記
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