2013年05月16日

議決権、会社支配権、経営権

「サーベラス 株式3分の1超確保 西武は新任取締役を提案」(産経新聞2013.5.15)

(記事引用)
 西武ホールディングス(HD)に敵対的な株式公開買い付け(TOB)を進めている筆頭株主で米投資会社のサーベラスが、株主総会での特別決議に拒否権を持つ3分の1以上となる約34%の株式を現時点で確保できていることが14日、分かった。ただ3分の1以上を確保しても実質的な経営支配はできず、取締役の選任をめぐり、6月末の株主総会で委任状争奪戦(プロキシファイト)となる可能性が高まっている。
 西武HDとサーベラスは株式再上場の時期をめぐり対立。サーベラスは3月12日からTOBを始め、保有比率を現在の32・4%から最大44・67%に増やしたい構え。買い取り価格は1株1400円と、平成16年12月の上場廃止時の終値(485円)より高く、約13%を占める約1万3千人の個人株主のうち、換金希望者が相当数あるとされる。
 TOBは17日に期限を迎えるが、サーベラスが3分の1以上を確保すれば、株主総会で合併や事業譲渡などの特別決議に対する拒否権を得られる。ただ、それだけでは経営権は握れないため、サーベラスは五味広文・元金融庁長官ら8人の取締役候補を提案している。
 一方、西武HDは14日、総会に3人の新任取締役候補を提案すると発表した。候補者は評論家の大宅映子氏や小城武彦・丸善CHIホールディングス前社長ら3人。プロキシファイトには過半数の賛成が必要で、西武が勝てば再任を含めた取締役会の11人中10人を、サーベラスが勝てば同15人中9人を確保し、事実上の経営権が移ることとなる。
 後藤高志社長は同日の会見で「自信を持って推薦する方々。株主にはTOBに応じないでいただきたい」と支持を訴えた。これに対し、サーベラスは「引き続き対話を求めたい」とのコメントを発表した。
(引用終わり)


株式会社のいわゆる支配権は、株主が保有する株式の議決権の割合により決せられます。
もっとも、いくら多くの議決権を有して会社を支配しているといっても、それによりその株主が会社を経営できるわけではありません。ここでは最も典型的な取締役会設置会社を前提としますが、会社のいわゆる経営権(業務執行権)は一義的に取締役(会)にあり(会社法362条2項、363条1項)、どんな大口の株主でも取締役でないかぎり、これに直接関与することはできません。どんな大株主(100%株主でも建前上は)がいくら不採算鉄道路線の廃止や球団売却などを主張しても、これらはあくまで経営事項であり、株主が直ちにそれを実現できるわけではありません。

株主がその支配権を発揮することができるのは、株主総会においてです。取締役会の経営権(業務執行権)も万能ではなく、株主の重要な利益に関する事項等については、決定権は株主総会に留保されています(同法295条2項)。株主の会社支配権の最たる現れは、株主総会における取締役選任・解任権といえます。取締役は、株主総会の決議によって選任・解任されます(同法329条、339条1項)。取締役選任・解任のための総会決議要件は、原則として、議決権の過半数を有する株主が出席し、その出席株主の議決権の過半数となります(同法309条1項)。したがって、株主が議決権の過半数を有していれば、株主総会における取締役選任・解任権行使を通じて自らの意向に沿う者を取締役に選任して取締役会を占めさせ、あるいは沿わない取締役を解任して、それにより経営権(業務執行権)を取得することができます。そこで、株主が会社を支配しようとする場合は、まず議決権の過半数の取得を目指し、それができれば名実ともに会社支配権を獲得したと言ってよいといえます。

記事の西武ホールディングスの事案では、すでに32.4%を有する大株主サーベラスグループが、最大44.67%までの買い増しを目指し株式公開買付(TOB)をかけています。最大に買い付けても過半数に達しませんが、それでも会社支配において意味がないわけではもちろんありません。

特に会社の基礎の根本に関わるような事項(定款変更、新株発行、合併、会社分割、事業譲渡、解散、監査役解任等。但し一定の例外あり)については、総会決議要件が厳格化され、原則として、議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の2/3以上の多数による必要があります(特別決議。同法309条2項)。逆から見れば、議決権の1/3超を有していれば、これらの重要事項について拒否権を行使することができ、それにより経営に一定の影響力を発揮することができます。

サーベラスグループはすでに32.4%を保有しており、今回のTOBで1/3超を確保できる見通しのようです。株主総会での議決権行使状況からみれば、32.4%でも実質的には1/3超の影響力を有していたといえますが、TOBで名実ともに完全な拒否権を得て交渉力を高めたうえで会社側に様々な要求をするという戦略のようにみえます。

なお、サーベラスグループは次回定時株主総会に向けて取締役8名、監査役2名の候補者を立てて役員選任議案を提出する構えを見せており、これに反対する会社側と過半数獲得を目指した委任状勧誘合戦(プロキシファイト)となる可能性があります。サーベラスグループのみで議決権の過半数を得られなくても、定時株主総会において他の株主の賛同を得て自らが立てた多数の候補者を役員に選任して取締役会の過半数を占めることができれば、経営権(業務執行権)を取得することができます。
posted by kinyu-bengoshi at 11:12| 日記
リンク集