2013年03月14日

民法改正中間試案(約款)

「契約ルール、中小に配慮 民法改正試案 個人保証、経営者に限定 約款・法定利率も見直し」(日本経済新聞2013.2.27)
「法定利率下げ、変動制に 法制審試案 民法改正15年にも 約款の不当条項無効」(日本経済新聞2013.2.18)

民法の契約ルールの見直しを進めてきた法制審議会の部会が2月26日、法改正の中間試案を決めたとのことです。銀行などが中小企業に融資する場合に求める個人保証について経営者以外は認めないなど中小企業保護に配慮したのが特徴の一つであるとしています。消費者契約の透明性向上や法定利率の見直しも盛り込んでおり、実現すれば幅広い取引に影響がありそうだと指摘しています。


ここでは、約款についてみてみます。
約款とは、多数取引の画一的処理のためあらかじめ定型化された契約条項をいい、普通取引約款や普通契約約款などと呼ばれることもあります。身近なものとしては、銀行取引約定書、普通保険約款、運送約款、ホテル宿泊約款、などがあります。約款は一応利用者に提示ないし交付されますが、利用者が小さく大量の文字で記載された約款を見て契約するかどうかを判断するということはあまりないと思います。しかし、後でトラブルになった際にこの約款が登場して、ここにこう書いてあると主張されることがあります。そこで、このような約款に当事者が拘束されるのか(約款の拘束力)が問題となります。
現行民法では約款についての規定はありませんが、判例上、普通保険約款の事案において、「約款に依らざる旨の意思を表示せずして契約したるときは反証なき限りその約款に依るの意思をもって契約したるものと推定す」(大審院大正4年12月24日判決)とされています(意思推定説などと呼ばれています)。利用者が契約時に約款によらないという意思を示すことなどまずないので、約款の内容を知らないで契約した場合でも原則として約款の拘束力が認められることになり、利用者にとって厳しいものといえます。
もっとも、これでは不当な約款条項が含まれていた場合でもそれを知らずに契約した利用者を保護できなくなってしまうことから、実際の裁判では約款の適用範囲を制限したり合意の成立を否定したりして利用者の保護が図られてきました。たとえば、ホテル宿泊約款において、宿泊客がホテルに持ち込みフロントに預けなかった物品、現金、貴重品のうち宿泊客から事前に種類及び価額の明告のなかったものが滅失、毀損するなどした場合には、ホテルは15万円を限度として損害賠償をする旨の定め(本件特則)があった事案で、判例は「ホテル側に故意又は重大な過失がある場合に、本件特則により、被上告人の損害賠償義務の範囲が制限されるとすることは、著しく衡平を害するものであって、当事者の通常の意思に合致しないというべきである。したがって、本件特則は、ホテル側に故意又は重大な過失がある場合には適用されない」としました(最高裁平成15年2月28日判決)。また、建物賃貸借契約において賃借人に通常損耗について原状回復義務を負わせる特約(通常損耗補修特約)が付されていた事案で、判例は「賃借人に予期しない特別の負担を課すことになるから、賃借人に同義務が認められるためには、少なくとも、賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか、仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には、賃貸人が口頭により説明し、賃借人がその旨を明確に認識し、それを合意の内容としたものと認められるなど、その旨の特約・・・が明確に合意されていることが必要である」としました(最高裁平成17年12月16日判決)。
また、立法上も、消費者と事業者間の契約において「民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。」(消費者契約法10条)とされています。もっとも、最近でも建物賃貸借契約における更新料条項(最高裁平成23年7月15日判決)や携帯電話の中途解約金条項(京都地裁平成24年11月20日判決)が消費者契約法10条に違反せず有効とされたように、条項自体が無効とされるハードルは低くないといえます。

今回の改正中間試案では、約款について、
「1 約款の定義
約款とは,多数の相手方との契約の締結を予定してあらかじめ準備される契約条項の総体であって,それらの契約の内容を画一的に定めることを目的として使用するものをいうものとする。
(注)約款に関する規律を設けないという考え方がある。」
として初めて明文上の定義規定が置かれることとなるようです(法務省HP「民法(債権関係)の改正に関する中間試案(案)」。以下同)。
また、約款の有効要件については、
「2 約款の組入要件の内容
契約の当事者がその契約に約款を用いることを合意し,かつ,その約款を準備した者(以下「約款使用者」という。)によって,契約締結時までに,相手方が合理的な行動を取れば約款の内容を知ることができる機会が確保されている場合には,約款は,その契約の内容となるものとする。
(注)約款使用者が相手方に対して,契約締結時までに約款を明示的に提示することを原則的な要件として定めた上で,開示が困難な場合に例外を設けるとする考え方がある。」
としています。
さらに、不意打ち的な条項については、
「3 不意打ち条項
約款に含まれている契約条項であって,他の契約条項の内容,約款使用者の説明,相手方の知識及び経験その他の当該契約に関する一切の事情に照らし,相手方が約款に含まれていることを合理的に予測することができないものは,上記2によっては契約の内容とはならないものとする。」
としています。
不当条項が無効となる場合については、
「5 不当条項規制
前記2によって契約の内容となった契約条項は,当該条項が存在しない場合に比し,約款使用者の相手方の権利を制限し,又は相手方の義務を加重するものであって,その制限又は加重の内容,契約内容の全体,契約締結時の状況その他一切の事情を考慮して相手方に過大な不利益を与える場合には,無効とする。
(注)本文のような規律を設けないという考え方がある。」
としています。

今後の法制審議会部会での議論を踏まえ、どのような条項となって示されるかが注目されます。
posted by kinyu-bengoshi at 21:27| 日記
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