2013年03月11日

民法改正中間試案(債権譲渡禁止特約)

「契約ルール、中小に配慮 民法改正試案 個人保証、経営者に限定 約款・法定利率も見直し」(日本経済新聞2013.2.27)
「法定利率下げ、変動制に 法制審試案 民法改正15年にも 約款の不当条項無効」(日本経済新聞2013.2.18)

民法の契約ルールの見直しを進めてきた法制審議会の部会が2月26日、法改正の中間試案を決めたとのことです。銀行などが中小企業に融資する場合に求める個人保証について経営者以外は認めないなど中小企業保護に配慮したのが特徴の一つであるとしています。消費者契約の透明性向上や法定利率の見直しも盛り込んでおり、実現すれば幅広い取引に影響がありそうだと指摘しています。


ここでは、債権譲渡禁止特約についてみてみます。
債権の譲渡は「債権は、譲り渡すことができる。」(民法466条1項本文)とされているとおり、原則自由です。この例外として、「ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない。」(同条項但書)、「前項の規定は、当事者が反対の意思を表示した場合には、適用しない。」(同条2項本文)と規定されており、これらの場合は譲渡が無効となります。
債権譲渡禁止特約とは、この民法466条2項本文の「当事者が反対の意思を表示した場合」に当たり、企業間取引や公共事業の発注、金融機関との預金取引などにおいて規定されることが多いです。ちなみに、金融機関からの借入金については銀行取引約定書や金銭消費貸借契約書に譲渡禁止特約を付されることはなく、原則通り金融機関は債権譲渡を自由に行えます。不良債権化した債権をファンドやサービサーに売却するバルクセールを実施して最終処理をすることが少なくありません(サービサーやバルクセールについては弊事務所HPのQ&A 金融機関取引の基本 融資編Q8を適宜ご参照ください)。
もっとも、この債権譲渡禁止特約も絶対ではありません。民法466条2項但書で「ただし、その意思表示は、善意の第三者に対抗することができない。」とされているとおり、債権の譲受人が当事者の反対の意思表示すなわち譲渡禁止特約について善意、つまり知らなかった場合には、譲渡禁止特約はその譲受人に対して対抗することはできず、債権譲渡は有効なものとなります。なお、譲受人が譲渡禁止特約について知らなかった場合でも、知らなかったことについて重大な過失があるときは、悪意の譲受人(譲渡禁止特約について知っていた譲受人)と同様、譲渡によってその債権を取得できない、とされています(最高裁昭和48年7月19日判決)。つまり、民法466条2項但書の「善意の第三者」とは、単に譲渡禁止特約を知らなかっただけでは足りず、知らなかったことにつき重大な過失がない第三者(善意かつ無重過失の第三者)である必要があると解されています。なお、預金の譲渡については、銀行預金債権に譲渡禁止特約が付されていることは少なくとも銀行取引につき経験のある者にとっては周知の事柄に属する、として譲受人は善意だが重過失の第三者であるとされました(上記判例。弊事務所HPのQ&A 金融機関取引の基本 その他編Q2も適宜ご参照ください)。

民法466条2項本文が譲渡禁止特約を認めている趣旨は、債務者の保護にあります。
もっとも、善意かつ無重過失の第三者という例外が認められているとはいえ、原則自由であるはずの債権譲渡を制限する効力が強すぎるという批判がありました。たとえば、下請け業者が下請代金債権を譲渡して運転資金の確保を図るニーズがあるものの、譲渡禁止特約の存在がこれの妨げとなっています。また不動産などの担保余力に乏しい中小企業が保有する商取引債権を担保に借り入れ(債権譲渡担保融資)をしたいニーズに対しても譲渡禁止特約が妨げとなっています。なお、公共事業の工事請負代金においても原則譲渡禁止特約が付されていましたが、国土交通省の指導により特約が解除される動きが出ています。
譲渡禁止特約は、通常弱者側にある債務者の保護のためのものでありながら、実際は、下請け業者に対する元請け業者、公共工事受注会社に対する発注者たる国や地方公共団体、預金者に対する銀行など金融機関、という具合に、強い者をさらに保護するような形で用いられていたといえます。

今回の改正中間試案では、債権譲渡禁止特約が有効となる場合を現行よりも狭める案が示されています。
具体的には、
「債権譲渡
1 債権の譲渡性とその制限(民法第466条関係)
民法第466条の規律を次のように改めるものとする。
(1) 債権は,譲り渡すことができるものとする。ただし,その性質がこれを許さないときは,この限りでないものとする。
(2) 当事者が上記(1)に反する内容の特約(以下「譲渡制限特約」という。)をした場合であっても,債権の譲渡は,下記(3)の限度での制限があるほか,その効力を妨げられないものとする。
(3) 譲渡制限特約のある債権が譲渡された場合において,譲受人に悪意又は重大な過失があるときは,債務者は,当該特約をもって譲受人に対抗することができるものとする。この場合において,当該特約は,次に掲げる効力を有するものとする。(以下略)」
としています(法務省HP「民法(債権関係)の改正に関する中間試案(案)」)。

おおまかにいえば、現行民法では、債権譲渡は自由(原則)→譲渡禁止特約(例外)→善意かつ無重過失の第三者(例外の例外)という枠組みでしたが、譲渡禁止特約の例外が強すぎて事実上原則化していたようなところがありました。改正中間試案ではこれを、債権譲渡は自由(原則)→譲渡禁止特約+悪意又は重過失の第三者(例外)という形に修正し、例外の範囲を狭めているといえます。もっとも、譲受人が悪意又は重過失の場合に譲渡が無効となるのは同じなので、上記のような債権譲渡による資金調達のニーズにどこまで応えられるかは疑問もあるところです。
今後の法制審議会部会での議論を踏まえ、どのような条項となって示されるかが注目されます。
posted by kinyu-bengoshi at 21:08| 日記
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