2012年11月30日

シローンアレンジャーの賠償責任(最高裁)

「主幹事に情報開示義務 最高裁、十六銀に賠償命令 協調融資巡り」(日本経済新聞2012.11.28)

最高裁判所は27日、協調融資(シンジケートローン、シローン)で主幹事(いわゆるアレンジャー)を務めた十六銀行に対し、シローン参加銀行3行(パーティシパント)に5億円の損害賠償を命じる判決をしました。
事案としては、十六銀がシローン(9億円)のアレンジをした融資先企業が粉飾決算をしており、同行が事前にそのことを知りながら他の参加金融機関に伝えないままシローンを実行したため、その後同社が民事再生を申し立て融資債権が回収になったとのことで、参加行のうち3行が十六銀に対し損害賠償請求をしていたというもののようです。
最高裁は「十六銀は信義則上、情報を提供すべき義務があった」として、シローンのアレンジャーに対し、参加行(パーティシパント)への情報提供義務を認め、これは最高裁としての初判断ということです。


まず、シンジケートローンやアレンジャーなどの詳しい説明については、弊事務所HPのQ&A 金融機関取引の基本 融資編Q5を適宜ご参照いただければと思います。

最高裁HPに本件判決文がアップされており、それによると、本件訴訟の原告3行は、被告十六銀に対し、不法行為に基づく損害賠償請求権(民法709条)に基づき賠償金の支払いを請求したようです。
民法709条は「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」と規定しています。
この条文から、不法行為が認められる要件は、@権利侵害(加害行為と被侵害利益)、A@についての故意又は過失、B損害、C@とBとの因果関係、とされています(もっとも、不法行為の要件論は極めて多岐にわたっており、これと異なる様々な説があります)。
この要件に即していえば、本件事案で争いとなったのは、シローンアレンジャー行において権利侵害ないし過失が認められるかというところかと思われます(当事者がどういう主張を立てたのかは判決文からは不明ですので、第三者としての推測です。以下同)。
原告らは、シローンアレンジャーにおいては参加行に対し融資対象企業の決算書の不適切処理などの情報を伝達すべきいわゆる「情報提供義務」が存在したのに、本件十六銀はこの義務に違反したとして、これが権利侵害ないし過失として不法行為を構成すると主張したものと思われます。
これに対し被告は、原告ら参加行も貸付取引に精通しているから、被告は情報提供義務は負わない、と反論したようです(この点は判決文に明記されています)。

最高裁は結論として、「本件シ・ローンのアレンジャーである上告人(筆者注:被告十六銀)は,本件シ・ローンへの参加を招へいした被上告人(筆者注:原告参加3行)らに対し,信義則上,本件シ・ローン組成・実行前に本件情報(筆者注:粉飾に関する情報。詳しくは以下)を提供すべき注意義務を負うものと解するのが相当である。そして,上告人は,この義務に違反して本件情報を被上告人らに提供しなかったのであるから,被上告人らに対する不法行為責任が認められるというべきである。」として賠償請求を認めました(最高裁平成24年11月27日判決)。

最高裁の結論に至る事実認定及びその評価や判断過程が重要なのですが、そのまま引用すると長いので要約しますと、
・融資先企業のメインバンク兼別件シローンアレンジャー(本件シローンアレンジャー十六銀とは別)が同社の決算書に疑念を抱き、同社に対し外部業者による決算書精査を強く指示したうえで、その旨を別件シローン参加行にも周知していた(この事実を「本件情報」といいます)
・本件情報は同社の信用力についての判断に重大な影響を与えるものであった
・参加行が事前に本件情報を知れば参加を取りやめるないし上記精査結果を待つのが通常の対応である
・その対応をとっていれば原告らは本件シローン実行による損害を被ることもなかった
・本件情報は別件シローンに参加していない原告らが自ら知ることは通常期待できないところ、融資先企業担当者は本件シローンの組成・実行の判断を委ねる趣旨で被告に本件情報を伝えた
として認定事実を評価したうえで、
・被告が原告らに交付した書類には、情報の正確性・真実性について一切の責任を負わず、参加行が独自に信用力等の審査を行う必要があるなどとの記載があるとしても、被告がアレンジャー業務遂行の過程で入手した本件情報については原告らに提供されるよう期待するのが当然といえ、被告としてもそのような対応が必要であることを容易に思い至るべきである
・また被告において守秘義務違反も問題にならず、本件情報提供に何らかの支障もない
と判断して上記結論を導いたものです。

本判決は結論だけ一見すると、シローンアレンジャー行に一般的な情報開示義務を課したもののように見えなくもないですが、前提となる事実認定及びその評価や判断過程をよく読めば、何から何まで細かい情報まで逐一参加行に対し提供すべきことまで課しているわけではないことがわかります。判決の結論でもあくまで「"本件情報"を提供すべき注意義務を負う」としているので、本件のような経緯をたどった事案における"本件情報"のような場合の事例判断のような判決ではないかと思われます。

なお、田原睦夫裁判官は補足意見で、「アレンジャーはシンジケート・ローンへの参加を呼び掛けるに当っては,一般にアレンジャーとしてその相手方に対して提供が求められる範囲内において,誠実に情報を開示すべき信義則上の義務を負うものというべきであり,殊にアレンジャーがその業務の遂行過程で得た情報のうち,相手方が参加の可否を判断する上において影響を及ぼすと認められる一般的に重要な情報は,相手方に提供すべきものであり,それを怠った場合には,参加希望者を招聘する者としての信義則上の誠実義務に違反するものとして,不法行為責任が問われ得ると言える。」として、シローンアレンジャーにおいて不法行為が成立する場合の要件を一般的な形で示しています。

個人的な感想としては、一般論としては、被告も主張するとおり参加行もそれぞれプロの金融機関である以上、原則として各自で融資先企業の信用力を審査し参加の可否を判断して与信リスクを負うべきであり、アレンジャーの情報開示義務違反を主張して損害賠償請求することには若干の違和感を覚えることも否定できません。
しかし、シローンにおいては、参加行は、アレンジャーが融資先企業の財務状況等を詳細に審査して作成し、参加行を招聘する際に交付する書類(インフォメーションパッケージといいます)を一義的には一応正しいものと考えたうえで各自で与信判断をしているのが実態だと思います。アレンジャーもれっきとした金融機関ですし、アレンジャー自身リスクをとって融資する以上(アレンジだけして与信残高(エクスポージャーともいいます)を取らない場合もありますが)、インフォメーションパッケージにあえて虚偽の情報を記載したり重要な事実を隠したりすることは想定しづらく、記載内容をはじめから疑ったうえで一からすべて各自で調査するということは実際は難しいところです。
したがって、もし本件のような事実関係のもとでアレンジャーの情報開示義務違反が不問に付されたとしたら、参加行のアレンジャーに対する上記のような一種の信頼感にも影響し、またアレンジャーのシローンアレンジに対する委縮を招くなどかえってシローンマーケットの成長発展の阻害などの悪影響も考えられることもあり、少なくとも本件のような事案のもとでは、本件情報の情報開示義務違反が認められて不法行為が成立すると判断されてもやむを得ないところではないかと思われます。
posted by kinyu-bengoshi at 00:59| 日記
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