2012年11月08日

大学設置不認可に対する取消訴訟等

「田中文科相、3大学認可 開設決裁 迷走の末、来春開学」(日本経済新聞2012.11.8)

ここ数日紙面をにぎわせていた3大学設置不認可問題ですが、結局認可されることで決着したようです。

そこに至る報道を見てみますと、

「3大学開設認めず 文科相「審査のあり方見直す」」(日本経済新聞2012.11.2)
「大学不認可 撤回求める 秋田の学長「とても乱暴」 入学希望者は900人以上」(日本経済新聞2012.11.5)
「不認可大学 法的措置も 大臣決定 妥当性は 裁量権を逸脱/認可権は文科相 専門家、割れる判断」(日本経済新聞2012.11.6)
「3大学、新基準で再審査 文科相表明 苦肉の救済策、混乱なお 学校側、即時認可求める」(日本経済新聞2012.11.7)
「文科相、釈明に追われる 大学不認可 野党、撤回求め追及 衆院文科委」(日本経済新聞2012.11.7)
「文科相、外堀埋まり「降伏」 3大学を一転認可 世間の強い批判 党内も翻意促す」(日本経済新聞2012.11.8)

と数日間で、不認可→新基準で再審査→現行基準で認可、と目まぐるしく動いてきました。

結局認可されるようですのであまり意味がないかもしれませんが、もし実際に不認可となった場合の法的措置について触れてみたいと思います。

大学設置のために文科相の認可を受けなければならないことは、学校教育法4条に規定されています。
この「認可」の法的性質はともかくとして(個人的には講学上の「許可」であると考えます)、行政事件訴訟法上の「行政庁の処分」(行政事件訴訟法3条2項)であることは間違いないので、取消訴訟の対象となります。
取消訴訟とは、行政庁の処分によって法的利益を侵害された国民が、その処分の違法性を主張して取消しを求める訴訟です。
本件では、処分の名宛人である3大学の学校法人が原告となって、国を被告として、大学設置不認可処分の取消しを裁判所に訴えることになります。ちなみに、取消訴訟の被告は、文部科学省や文部科学大臣ではなく、国になります(同法11条1項1号)。なお、行政不服申立てという裁判外の手続きもありますが、これを経ずにいきなり訴訟をすることも可能です(同法8条1項本文)ので、ここでは省略します。
処分の違法事由はいくつか考えられます。
まず手続上の違法です。
本件不認可は、行政手続法上の「申請に対する処分」(同法2章)に当たります。
この場合、「行政庁は、申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合は、申請者に対し、同時に、当該処分の理由を示さなければならない」(行政手続法8条1項本文)とされており、行政庁(ここでは文部科学大臣)には処分理由の提示義務があります。
もし仮に大臣が3大学に対し不認可処分を言い渡した際に理由を明示していなければ、それだけで違法として取り消される可能性もあります。
次に、実体上の違法です。
大臣は2日の記者会見で不認可とする理由について「大学の設置認可のありようを抜本的に見直す」ことを挙げていました。また報道によれば、大臣は7日の衆議院文部科学委員会で、不認可とした理由についての質問に対し「3校のどこが悪いなんて具体的に知りませんし、悪いとも思っておりません」などと答弁したとのことです。
文科相に裁量権があることは否定しませんが、もしこの通りの理由で不認可処分をしたとしたら、さすがに的外れとしかいいようがなく、裁量権の逸脱・濫用の違法として取消し(行政事件訴訟法30条)となると思われます。
ちなみに、これに少し近い事例として、国家賠償請求訴訟の事案ですが、県知事による、個室付浴場の開業阻止を目的とした児童遊園の設置認可が「行政権の著しい濫用」として違法だとした最高裁判決(最高裁昭和53年5月26日判決)があります(目的違反・動機違反の違法などと言われます)。
本件は、大臣が主張するところの、大学の設置認可のありよう抜本的に見直して大学の質の向上を図るという目的と本件3大学の設置不認可処分との間に全くと言ってよいほど関連性がなく、上記事例以上に「行政権の著しい濫用」とされる可能性もあると思われます。

なお、仮に原告が取消訴訟に勝訴したとしても、不認可処分が取り消されるだけであり、ただちに認可となるわけではありません。
しかし、取消訴訟については、「処分又は裁決を取り消す判決は、その事件について、処分又は裁決をした行政庁その他関係行政庁を拘束する」(行政事件訴訟法33条1項)、「申請を却下し若しくは棄却した処分・・・が判決により取り消されたときは、その処分・・・をした行政庁は、判決の趣旨に従い、改めて申請に対する処分・・・をしなければならない」(同条2項)として判決の拘束力が認められるので、これにより改めて認可処分がなされることになります。

さらに進んで、行政庁に認可処分をすることを義務付けることを求める義務付け訴訟(同法37条の3。申請型義務付け訴訟)や緊急を要する場合の仮の救済としての仮の義務付け(同法37条の5)という手続きもあります。
申請型義務付け訴訟の勝訴要件は、取消訴訟の請求に理由があることに加え、「行政庁がその処分・・・をすべきであることがその処分・・・の根拠となる法令の規定から明らかであると認められまたは行政庁がその処分・・・をしないことがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認められるとき」(同法37条の3第5項)とされています。この要件はハードルが高いですが、大学設置審の答申が出て、申請内容に何の問題もないのだとすれば、この義務付けすらも認められる可能性も否定できないように思われます。
次に、仮の義務付けが認められる要件としては、「その義務付けの訴えに係る処分・・・がされないことにより生ずる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があり、かつ、本案について理由があるとみえるとき」(同法37条の5第1項。積極要件)で、「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれが」ないとき(同条3項。消極要件)とされています。前段の積極要件についてはハードルが高いですが、来年4月開学ができなくなることによる混乱の大きさや損害次第では、認められる余地も否定できないように思われます。

さらに、以上の行政訴訟とは別に、違法な不認可処分により3大学に損害が生じた場合には、国に対し損害賠償を請求する国家賠償請求訴訟(国家賠償法1条1項)を提起することも考えられます。
例えば、不認可により開学が1年遅れたために、その1年間に得られるはずだった学費等の収入がうべかりし利益(逸失利益)であるとして、その分の損害賠償を求めるような形になるかと思います。
故意・過失や因果関係など個別の要件についてはここでは省略します。
ちなみに、上記で紹介した個室付浴場の事件では、原告の賠償請求が認容されています。
国家賠償請求が認容されて国が賠償責任を負う場合、それは結局国民の負担となってきます。
なお、この場合、国は故意または重大な過失があった公務員に対し求償権を取得することも定められています(同条2項)。

posted by kinyu-bengoshi at 23:02| 日記
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