2012年11月05日

【金融円滑化法】銀行の出資規制緩和

「銀行の企業への出資比率 再生中、無制限に 非上場対象 金融庁方針」(日本経済新聞2012.11.1)
「金融庁、銀行の出資規制緩和 10〜15%案が有力」(日本経済新聞2012.10.11)

金融庁が31日の金融審議会で、経営が悪化して再生中の企業に限り、銀行による出資制限を撤廃する方針を示したとのことです。
以前にも、金融庁が銀行の事業会社への出資比率の上限を現行の5%から10~15%に引き上げる案を示し、金融円滑化法が来年3月末に終了するのを見据え中小企業にお金が回りやすくする、と報道されておりましたが、今回はさらにこれを進めて、再生企業については上限自体をなくして100%まで出資できるようにする、それにより「債務の株式化」もやりやすくなる、ということです。

まず、銀行の企業向けの出資比率規制とは、銀行(子会社も含む)が国内企業の議決権の5%を超える議決権を保有してはならない、というものです(5%ルール。銀行法16条の3第1項)。
5%ルールは、戦前の財閥支配に対する反省から設けられたもので、その必要性はただちに否定できません。
銀行側としても、この規制があるおかげで特定企業に対する出資の集中によるリスクを回避できた面もあると思われます。また、債権者と株主は利害が相反する場面もありますので、その点でも銀行の出資比率規制は一定の合理性があったと思われます(もっとも、本来融資や出資による信用リスクの管理は銀行自らの与信判断、投資判断により適切な分散投資をすれば済むことであり、あえて法律で縛らなければならない必然性まではないです)。
他方、中小企業は総じて過小資本、過剰債務体質であるところ、長引く景気低迷やデフレの影響等で赤字・債務超過となりやすく、それにより資金調達が困難をきたして事業の存続が危うくなる、という状況となっていました。
そこで、こうした中小企業の自己資本を充実して、財務耐性を高める必要性というものが以前から言われていましたが、なかなかこのような中小企業に対する資本の出し手がないのが実情でした。
そこで、こうした資本の出し手として、銀行が期待されるのは当然ともいえます。
しかし、出資比率規制の緩和により銀行がこうした企業に対し十分な出資を行うかどうかは疑問があります。

まず、出資比率を上限5%から10~15%まで引き上げる規制緩和について検討してみます。
銀行がこれまでこうした中小企業に5%の上限一杯に出資していたのであれば、上限を引き上げればさらに出資が増えるということも期待できますが、私が知る限り、銀行やその子会社が普通の中小企業に出資しているというのはほとんど見たことがありません。銀行が中小企業に出資しないのは、法律で上限があるからではなく、そもそも出資しにくい理由があるからです。
まず、出資は当然融資よりもリスクが高いですから、投資家はそれに見合う高いリターンが期待できなければ出資しません。ただでさえ低収益構造の中小企業が多い中で、現下の厳しい経済環境下で十分な出資リターンを稼げる企業は多くないでしょう(そのような企業であれば、わざわざ銀行が出資しなくても、資金調達はさほど難しくないはずです)。
また、中小企業に5%の少額出資をしたところで、経営に関与できるわけでもなく、銀行主導で事業価値・株主価値を向上させることも難しいです。これが10~15%になったところで同じでしょう。
非上場の中小企業の場合、出資金回収の出口戦略(イグジットストーリー)も立てにくいです。金融投資家は3~5年で株式を売却して出資の回収を図りますが、上場予定があればよいですが、上場予定がないのであれば、3~5年後に5%とか10~15%の少数株の買い手に現れてもらう必要がありますが、そのような買い手はなかなかいないでしょう。
以上の通り、銀行の出資比率上限を5%から10〜15%に引き上げるというのは、効果が期待しにくいところです。

では、再生企業については100%出資も可とするという規制緩和はどうでしょうか。
まず、「債務の株式化」は、デットエクイティスワップ(DES)とも呼ばれるもので、事業再生の有力な手法の一つです。その名の通り、債務を株式に転換するというものですから、過剰債務が減り、その分自己資本が増えるので、財務改善の効果があります。
デットエクイティスワップの手続きについては、弊事務所HPのQ&A 金融機関取引の基本 事業再生・倒産編Q9で紹介しておりますので、適宜ご参照ください。
また、デットエクイティスワップなどで銀行が100%議決権を保有すれば、銀行が経営権を取得して自らの主導で経営再建を図れますので、5%とか10~15%とかの少額出資に比べれば事業価値・株主価値の向上の可能性が見えやすくなります。
また、100%議決権であれば、株主価値向上後の買い手の登場も見通しやすくなり、出口戦略は比較的立てやすいといえます。
以上から、再生企業についての出資比率規制の緩和の方がまだ期待が持てるといえます。
しかし、再生企業への出資は、これまですでに多くの投資家(外資系金融機関、銀行や証券会社系の投資会社、独立系の再生ファンドなど)が参入して投資実績も上げており、いまさら銀行本体に参入してもらうほどのニーズがあるのかは疑問です。
銀行本体の参入の意義があるとすれば、これらの投資家ではできなかったような案件への投資をすることだと思いますが(たとえば、10年とか20年とかの長期投資、低い出資リターンの甘受など)、銀行自体も本業でなかなか稼げていないなかで、どこまで損失覚悟でできるかというところかと思います。

弊事務所HPの中小企業金融円滑化法事業再生Q&A 金融機関取引の基本 事業再生・倒産編なども適宜ご参照いただければと思います。
posted by kinyu-bengoshi at 21:43| 日記
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