2012年11月01日

厚生年金基金(企業年金)2-解散・賠償請求

「長野の基金、解散検討 未公開株運用 3社に損賠請求へ」(日本経済新聞2012.11.1)
「基金 ずさん運用再び 運用3社を一部業務停止 長野県警 詐欺容疑でファンド捜索 制度の壁 解散踏み切れず」(日本経済新聞2012.10.17)

AIJ投資顧問による年金消失問題で巨額の被害にあった長野県建設業厚生年金基金が、AIJ向け投資以外でも未公開株ファンドへの投資などで巨額の運用損失を被っていた(ファンド資産は当初の68億円が22億円まで減った)として大きく報道されていました。
この事案については、ファンド業者3社が詐欺容疑で長野県警の捜索を受け、基金の元事務長が20億円もの年金資金を横領して海外に逃亡するなど、刑事事件に発展しています。
また金融庁は、基金から運用を受託していた信託銀行や投資顧問会社3社についても、年金受託者としての善管注意義務違反があったなどとして一部業務停止の行政処分をしています。
同基金の財務状況は公表されておらずわかりませんが、各種報道によれば、2011年度決算でAIJ被害損失65億円を計上した結果、純資産額が100億円に目減りし、最低責任準備金280億円を180億円下回るいわゆる代行割れとなった模様です。
当初の報道では、本基金も含め運営困難となった基金は解散をしたいところ、解散時に積立不足を納付しなければならないことがネックとなって解散に踏み切れないでいるとのことでした。
本日の上記報道では、それでもなお本基金は解散を検討することを表明したとのことです。

では、基金の解散の要件と手続はどのようなものでしょうか。
以下、厚生労働省HP等を参考に整理してみます。

まず、法律上の規定です。
法律上、基金の解散の要件は、
1 代議員の定数の四分の三以上の多数による代議員会の議決
2 基金の事業の継続の不能
3 厚生労働大臣による解散の命令
のいずれかとされています(厚生年金保険法145条1項)。
そして、上記1又は2の事由により解散する場合は、厚生労働大臣の認可が必要とされています(同条2項)。

次に、上記1の事由により解散する場合は、厚生労働省年金局長通知により、以下の解散理由と解散手続も必要とされています。
1 解散理由
代議員会で議決された当該基金の解散理由が、次の@〜Cのいずれかに該当しているものであること。
@設立事業所の経営状況が、債務超過の状態が続く見込みであるなど著しく悪化していること。
A加入員数の減少、年齢構成の高齢化等により、今後、掛金が著しく上昇する見込みであり、かつ、当該掛金を負担していくことが困難であると見込まれること。
B加入員数が、厚生年金基金設立認可基準に比して著しく減少し、基金の運営を続けていくことが困難であると見込まれること。
C@〜Bのいずれにも該当しない場合であって、基金設立後の事情変更等により基金の運営を続けていくことが困難であると見込まれること。
2 解散手続
代議員会における議決の前に次の@〜Cのすべての手続を終了していること。
@事業主の同意
代議員会における議決前一月以内現在における全設立事業所の事業主の四分の三以上の同意を得ていること。
A加入員の同意
代議員会における議決前一月以内現在における加入員総数の四分の三以上の同意を得ていること。
B受給者への説明
代議員会における議決前に、全受給者に対して、解散理由等に係る説明を文書又は口頭で行っていること。
C労働組合の同意
設立事業所に使用される加入員の三分の一以上で組織する労働組合がある場合は、当該労働組合の同意を得ていること。

また、解散時のいわゆる積立不足については、「基金が解散する場合において、当該解散する日における年金給付等積立金の額が、政令で定める額を下回るときは、当該基金は、当該下回る額を、設立事業所の事業主から掛金として一括して徴収するものとする。」(同法138条6項)、企業年金「連合会は、基金が解散したときは、解散基金加入員に係る第八十五条の二に規定する責任準備金に相当する額を当該解散した基金から徴収する。」(同法161条1項)と規定されています。
すなわち、解散時の積立不足については最終的には基金の母体企業が納付義務を負担することとされています。

ちなみに、株式会社の解散の要件は以下のいずれかの事由に該当する場合です(会社法471条)。
@定款で定めた存続期間の満了
A定款で定めた解散の事由の発生
B株主総会の決議
C合併(合併により当該株式会社が消滅する場合に限る。)
D破産手続開始の決定
E解散を命ずる裁判
そして、解散した場合は、合併または破産の場合を除き、清算されます(同法475条1号)。

以上から、厚生年金基金の解散は、その要件及び手続において株式会社の解散とは比較にならないほどハードルが高いことがわかります(もともとまったく性質の異なるものを比較しているので当然といえば当然ですが)。

しかも、基金の場合は、基金が解散できても積立不足の納付債務は母体企業に残ることになるので、母体企業にとってみれば、財務・資金面の負担の顕在化により経営上大きな影響を受けることになります。
なお、基金解散の場合の母体企業における会計処理や金融検査マニュアル上の取り扱いについては厚生労働省や金融庁が公表しております。
弊事務所HPのQ&A 金融機関取引の基本 事業再生・倒産編Q7にて具体的事例に即して取り上げておりますので適宜ご参照いただければと思います。

なお、上記報道によれば、上記基金は、信託銀行ら3社に対し運用損失についての損害賠償請求をする方針も固めたとのことです。
この点については、基金は直接の被害者ではありますが、その運用損失により基金の積立不足が拡大し、基金解散時には母体企業がその不足額の納付義務を負うという関係にある以上、母体企業が実質的な被害者といえ、母体企業が上記信託銀行ら3社に対し損害賠償請求をするという余地もあるかと思われます。
posted by kinyu-bengoshi at 22:27| 日記
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