2012年10月20日

LIBOR問題4

法的請求の検討

@投資家(金利スワップの変動金利の受け手を含む)が不正に関与した銀行に対して請求する場合
この場合は、米国でのようにうべかりし利益の損害賠償請求をすることが考えられます。
日本では、不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)ということになりますが、まず損害の確定が問題となりそうです。
そもそもLIBORは自己申告をベースに算出されるものであり、本来あるべきLIBORなどというものを概念できるかどうか、できるとしても、低めに申告した銀行が本来申告すべき水準がいくらだったのかをどうやって確定するのか、しかも過去に遡ってその当時申告すべきだった水準がいくらかを算出できるのかなど、難しい面がありそうです。
そのほかにも、不正行為と損害の因果関係や銀行の故意過失などの要件も問題になりそうです。
米国の訴訟の帰趨などにも注目しながら、引き続き考えてみたいと思います。

A投資家が直接の取引の相手方の銀行に対して請求する場合
この場合は、もしその銀行が金利不正操作を知りながらあえて金融商品等を高く売りつけたなどという事情があれば、@と同じように損害賠償請求の余地がありそうです。
また、詐欺取消し(民法96条)、錯誤無効(民法95条)などを主張して投資・売買契約を無効にして差損分を取り戻すということも一応考えられます(錯誤無効は相手方銀行が金利不正操作について知らない場合でも可)。もっとも、この場合は「要素の錯誤」というものが要件として必要になるところ、単に安いものを高く評価して買ってしまったというような目的物の価値評価の誤りは動機に過ぎないと考えられております。動機の錯誤とは、わかりやすい例でいえば、受胎能力がない駄馬を受胎した良馬だと思って買ったとか、ある土地の前を道路が開通するから地価が上がると信じてその土地を買ったが実は道路の開通の予定はなかった、などという場合です。このような動機の錯誤でも、契約の際に相手方に明示していれば要素の錯誤になり得ると解されておりますので(大審院大正3年12月15日判決)、こうした事情があれば全く錯誤無効が認められないというわけではないです。ただ、ある金融商品を買う際に「LIBORが0.3%と低いから」とか「割引率が0.95と高いから」というのを主な動機にするとは考えにくく、動機の錯誤とすら言えるのか疑問も生じそうです。仮に動機の錯誤だとしても、これを相手方に明示して買うようなケースもあまりなさそうです。
なお、金融商品投資について錯誤無効を認めた裁判例として、大阪高裁平成22年10月12日判決(FXターン債という為替系の仕組債について)があります。
また、今回の問題と直接関係ありませんが、3か月TIBORを対象金利とする金利スワップについて、銀行側の重大な説明義務違反が信義則違反だとして契約無効を認めてTIBORの受け手の企業側を勝たせた裁判例として、福岡高裁平成23年4月27日判決(最高裁上告中)があります。
これらの裁判例については、弊事務所HPのQ&A 金融機関取引の基本 デリバティブ編Q1において簡単に紹介しておりますので、適宜ご参照ください。
当然のことながら、これらの事件も含めて、これまで紛争において基準金利の妥当性などということは全く問題になっておらず、当事者や裁判所も基準金利は正しいものという前提で主張立証や審理をしています。
今後の同種紛争において今回のLIBOR問題がどのような影響を及ぼすのかについても、引き続き考えてみたいと思います。

B不正に関与した銀行の株主がその銀行の役員等に対して請求する場合
役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負います(会社法429条)。これを「役員等の第三者に対する責任」といいます。また、役員等の悪意・重過失による任務懈怠から会社が損害を被り、その結果第三者に損害が生じる場合を「間接損害」といい、株主もこの第三者に含まれると解されております(反対説もあります)。
今回のLIBOR問題にあてはめれば、銀行の役員が金利の不正操作をした→そのために会社が金融商品の投資家等から巨額の損害賠償請求を受けたり、行政処分や刑事罰の対象となる→市場が賠償リスク等を嫌って株価が下がった→銀行の株主が保有株式の株価下落により損失を被った、という流れになります。
銀行の株主は、不正に関与した役員等に対し、この第三者に対する責任に基づき損害賠償請求をし得ることとなります。
もっとも、この手の紛争では損害額の認定や因果関係の立証が問題となり、難しい面もあります。
なお、銀行自体が賠償金支払いなどで具体的な損害を被った場合には、株主代表訴訟(会社法847条、423条)も法的にはあり得ます。

C以上の他にも、引き続き考えてみたいと思います。

報道によれば、LIBORについては、それまで英銀行協会(BBA)が算出していたのを新たな機関に移すとともに、銀行を監督する英金融サービス機構(FSA)の監視下に置き(いわば公的管理)、各銀行が提示する金利も実際の取引に基づく金利とする改革案が示されました。
日本では、全銀協がTIBORについて不正の有無等について点検し、問題はなかった旨の結果を公表しましたが(全銀協プレスリリース2012.8.17)、金融庁も今後考え方を示す可能性があるようです。

今後ともこうした動きを注視していきたいと思います。


posted by kinyu-bengoshi at 21:29| 日記
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