2013年08月17日

金融庁検査の方針転換

「成長企業に融資しやすく 金融庁検査、銀行の査定尊重 不良債権処理優先を転換」(日本経済新聞2013.8.17)

(記事一部引用)
 金融庁は独自の基準に基づいた画一的な銀行検査を見直す。1990年代はじめのバブル崩壊後の不良債権処理を目的としてきた検査を転換。融資先が健全かどうかの判断は銀行に大部分をゆだねる。銀行がリスクをとりやすくなり、技術力はあるのに決算上は赤字になっている中小・ベンチャー企業がお金を借りやすくなる。日本経済の成長を後押しする効果もねらう。
(引用終わり)


銀行は、借り手企業の信用格付けや債務者区分などいわゆる自己査定を行い、金融庁検査も見通しながら与信判断するのは当然です。しかし、それだけで機械的に判断するほど主体性なく金融庁検査のことしか考えていないというわけではなく、当然のことながら、自行の利益、発展のために独自の経営判断をします。

要するに、与信審査の結果、貸したいと思う先には貸すし、そうでない先には貸さない、というのがまず先にあり、自己査定や金融庁検査はその判断過程で考慮されるものではあるものの、それだけで全てが決まるという単純な話ではありません。

対外的には、金融庁検査で想定される扱い(要注意先以下等)を理由に融資謝絶をしてはいけないことになっていますが、行内的にはそれだけで融資謝絶の一応正当な理由となります。そしてこれは、対金融庁でも同様です。

実際は、中小企業向け貸し出しがなかなか増えないのは、必ずしも金融庁検査のせいではなく(全くないとは言えませんが)、そもそも景気回復が道半ばで中小企業の事業環境がなかなか好転せず、前向きな資金需要が活発化しない、貸したくても貸す先がない、という実体経済の状況のためといえます。

このような中小企業向けの銀行貸し出しが伸び悩む中で、金融庁検査が、銀行が中小企業向け貸し出しを増やさないことを正当化する言い訳に使われている面が否定できないといえます。

いくら金融庁検査が緩和的に方針転換されたとしても、それにより実体経済が変わるわけではないですから(全くないとは言えませんが)、銀行からすれば、上記の言い訳が使いにくくなる分、かえってありがた迷惑であるという声も聞こえそうです。

それでも、金融庁からすると、断固たるデフレ脱却を期す政権からの強いプレッシャーを受ける中で、今回の金融庁検査の緩和的な方針転換は、中小企業向け貸し出し増のためにできることはやっています、それでも貸さないのは銀行がサボっているからです、という形を作ることができるという意味もあるという見方もできそうです(もちろん、そのようなポーズだけのためであるわけがなく、一種の金融緩和政策として、中小企業向け貸し出しを活性化させることを目指す施策であることが否定されるものではありません。)

金融庁検査や自己査定については、弊事務所HPの金融検査マニュアル・自己査定も適宜ご参照ください。
posted by kinyu-bengoshi at 12:00| 日記

2013年08月11日

【金融円滑化法】2013.7企業倒産

「7月の企業倒産件数ほぼ横ばい、負債総額は72%減 商工リサーチ」(日本経済新聞2013.8.8)

(記事引用)
 東京商工リサーチが8日発表した7月の倒産件数(負債総額1000万円以上)は1025件で、前年同月(1026件)と比べてほぼ横ばいの0.09%減だった。前年実績を下回るのは9カ月連続。負債総額は72%減の1995億6300万円で、倒産件数と負債総額はいずれも7月としては過去20年間で最も少なかった。
 前年は三光汽船や消費者金融のクラヴィスなど負債総額が1000億円を上回る大型倒産が相次いだ。今年は大型倒産がなく、負債総額が大幅に減少した。
 産業別では建設業が234件と17カ月連続で減ったほか、不動産業も6カ月連続で前年を下回った。円安による燃料価格の上昇が経営の負担増となる運輸業も4カ月ぶりに減少した。半面、飲食料品の倒産が目立った小売業が今年最多の154件だった。サービス業なども今年最多に増えたほか、卸売業や情報通信業も増加に転じた。
 地区別にみると、9地区のうち6地区が前年を下回った。近畿や北海道、四国などで減少傾向が続いたが、関東では9カ月ぶりに前年を上回った。中部、九州などでも増加した。
 商工リサーチは「当面、中小企業金融モニタリングなどの環境整備もあり、倒産抑制の流れが緩む可能性は低い」とみている。併せて金融機関の4〜9月期決算を挟んだ秋以降のリスクとして「業績不振の企業を中心に倒産は緩やかな増加をたどる可能性も残している」と指摘している。
(引用終わり)


全体でみれば引き続き倒産抑制傾向は続いているようですが、倒産件数は前年7月の1026件から1025件に1件減っただけのほぼ横ばいです。
また、TSRのプレスリリースによれば、金融円滑化法利用企業の倒産件数は前年比2.5倍の43件となり、中小企業の倒産件数は1024件と9か月ぶりに増加に転じたようです。法的倒産の構成比は過去最高の86.1%となったようです。
事例紹介では、金融円滑化法により返済猶予を受けていたものの、銀行に債権譲渡をされ、本社不動産を差し押さえられて最終的に行き詰った事例が挙げられています(倒産形態は不明)。
金融円滑化法という、金融機関に対し企業向けの資金繰り支援を促す法的な裏付けを失った中、ペースはともかく、今まで先送りされてきた中小企業の倒産が今後増加する傾向は否定できず、これと景気回復による中小企業の事業環境の好転とのスピード競争ということになりそうです。

金融円滑化法終了の影響や事業再生などにつきましては、弊事務所HPの中小企業金融円滑化法事業再生Q&A 金融機関取引の基本 事業再生・倒産編なども適宜ご参照いただければと思います。
posted by kinyu-bengoshi at 00:39| 日記

2013年08月10日

官民ファンドの投資状況

「革新機構、洋服販売会社に出資 東南アジア進出支援」(日本経済新聞2013.8.7)

(記事引用)
 官民ファンドの産業革新機構は7日、洋服のインターネット販売を支援するアパレルウェブ(東京・中央)に最大3億円を出資すると発表した。同社が幅広い日本のブランドをネットを通じて東南アジアの若者に売り込む事業を支援する。
 アパレルウェブはシンガポールでセレクトショップを展開し、日本製の高級ジーンズを販売している。現地での知名度を生かしてネットでも日本の最新のファッションを提案する。ほかのセレクトショップやメーカーの商材も扱うことで、幅広い日本製品の窓口となることを目指す。
(引用終わり)


記事を読む限りでは、誰も見ていないからといってさすがに悪乗りが過ぎるのではないか、いくら投資案件がないからといってこれはないだろう、この国には3億円の民間投資マネーもないのか、などとの指摘があがりそうです(なお、筆者は本記事の投資先企業について一切言及するものではありません)。
機構からすれば、個別の投資案件1件1件それぞれに民間資金ではなくあえて公的資金を投じるべき重要な必要性や意義があると説明するのでしょうが、国民の貴重なお金を投資している以上、それは一般国民から見てすぐにわかるものであるべきであり、いちいち機構から詳しい説明を受けなければならないということでは足りず、普通の民間ファンド以上に投資家(国民)に対する高度な説明責任を求められているといえます。

同機構の平成24年3月期の決算状況については、当ニュース解説・コラムの官民ファンド監視委員会で触れましたが、ちょうど直近の平成25年3月期の決算も公表されているので、簡単に見てみたいと思います。

平成25年3月期売上高183百万円(183億円ではない。1億8300万円)(前期2百万円)、同最終損失97億円(前期損失44億円)、同期末累積損失185億円(前期末87億円)となっています。
期中の保有株式等売却による投資回収はなく、売上高は投資先に対する貸付金(100億円が残高計上)の利息のようです。
これに対し期間損失は倍増していますが、これは一部投資先について事業計画遂行に疑念が生じる状況となったことから投資損失引当金(49億円)を計上したことが大きいようです。
投資成績は、創業4年間で投資した37件(投資額計約3647億円。なお、5月時点では39件、6200億円超)はまだ1件も売却により回収できていない一方で、49億円は投資失敗に帰したということになります。
販管費は前期と変わらず42億円です。執行役員は6名増えて10名、従業員は32名増えて112名となり、それに伴うとみられるオフィスの内装工事や備品の購入等で4億4000万円の設備投資も実施してより快適な職場環境が整備されるなど、着々と体制の充実が進められているようです。同機構はさながら、かつて日本の投資市場を席巻したが今ではほとんどが撤退したり解散したりして姿を見なくなったハゲタカファンドや外資系・国内系の投資ファンドの元ファンドマネージャー等の再就職の受け皿となる雇用政策を担っているのかとも受け止められそうです。

今までのところは、要するに、4年間で3647億円投資して既に49億円損した売上高2億円弱の会社が販管費42億円(4期計125億円)を流出し、累積損失185億円となっているという状況ということになります。
なお、機構の事業報告によれば、この状況下で政府の予算から1240億円の追加出資と借入金2105億円(おそらく全額政府保証)による資金調達をしたようで、平成25年3月末時点で現預金約1044億円が投資資金等としてスタンバイしている状況のようです。

外部から見る限りでは、民間であれば成り立たないような投資会社に公的資金出資と国の信用によるファイナンスにより無尽蔵に資金が流れ込み、行き場のないお金によりルーズな投資、民業圧迫な投資がなされるとともに、大盤振る舞いの経費流出がなされている姿が浮かび上がります。

あくまで投資会社ですから、全ての投資及び回収業務の終了まで待たなければ最終的な評価はできませんが、これがかつての3セクのように巨額の国民負担に帰した場合には、さすがに誰かが責任を取らなければ国民は納得しないといえそうです。バブル時の3セクは、今からみれば誰が見てもとんでもない愚かなことをしたと分かりますが、当時はバブル崩壊を予測できなかったとの言い訳が一応できましたが、あれだけ痛い目にあって教訓を得たにも関わらず、今回全く同じ失敗をしたというのでは、今度ばかりは一切言い訳はできないといえそうです。

機構の経営陣は社外取締役が中心で、取締役8名は平成25年3月期計77百万円(1人平均960万円)の役員報酬を受け取っていますが、これほどの大きな責任(会社法に基づく責任限定契約があるので損害賠償責任の金銭的リスクという意味ではさほどではないですが、国民から厳しく非難されこれまで築き上げた名声や評判を失いかねない等の有形無形のリスク)を考えれば、官僚に祭り上げられてしまったとはいえ、年間14回の取締役会と産業革新委員会に出席するだけで得られるものとしても必ずしも魅力的な報酬といえず、むしろご愁傷様ですとの見方もできそうです。

その一方で、ディールソーシング、バリュエーション、(実質的な)投資決定など実質的に投資業務を仕切っているとみられる執行役員10名は、名前しか公表されていないので一般国民から見てどこの誰なのか、どういう経歴でこれまでどういう運用実績を上げてきたのかも分からず、また会社法上の役員でもないので取締役としての損害賠償責任も何ら負わないという形となっています。

要するに、機構の投資が失敗して国民が負担をかぶったとしても、損害賠償等金銭的負担を求めて責任追及すべき相手がいないという仕組みとなっており、それどころか、最終的には税金により損失を穴埋めするという3セクの2の舞ともいえる形も十分想定されるところです。

とはいえ、機構が今後投資案件を円滑に売却して十分に投資回収できればこのような心配は全く無用なわけであり、例えば平成25年3月末時点で切ってみた場合、失敗に終わった49億円を除いた残りの投資残高約3600億円が3785億円(投資回収年数を無視した投資利益5%程度)で回収できればこれまでの累積損失185億円を取り返せるので、最低限でもこの程度のリターンを上げるのは政府から選び抜かれた企業投資のプロフェッショナルからすれば何ら難しいことではないでしょうから、ぜひそのような望ましい結果をもたらしてもらえるよう、最終的なリスク負担者でありながら機構への間接的な資金拠出者であるため物言えぬ投資家となっている国民としては、祈るしかないところです。

政府が設置した官民ファンド監視委員会は活動を始めたようですが、お手盛りとかポーズとかでは許されない責任を負っているといえ、場合によっては、投資が失敗に終わって国民負担に帰した場合の金銭的責任の追及が向けられる可能性もゼロとはいえないかもしれません。
posted by kinyu-bengoshi at 11:47| 日記
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