2013年04月26日

中小企業の新事業展開の課題(ヒトか金か)

「中小白書「人材確保が課題」 悩む事業者の声目立つ」(日本経済新聞2013.4.26)

(記事引用)
 政府は26日、2013年版の中小企業白書を閣議決定した。創業が00年以降で海外展開を目指す企業の72.9%が事業が軌道に乗る時に「質の高い人材の確保」が課題だと答えた。営業損益が黒字化し業務量が増え始めるにつれ、人材不足に悩む事業者の声が目立った。
 必要な人材像を見ると、海外展開を目指す企業は高度な技術を持ち販路の開拓を担う人材が必要だとわかった。一方、地域での事業展開を目指す企業には後継者候補が必要との声が多く、事業継承が問題となっている様子がうかがえた。
 人材不足に対処するためには、インターンシップ(就業体験)の実施が有効だと指摘。特に新卒の学生が現場で必要な技術を習得するためや、育児などで一時的に退職した女性が職場に復帰する際の活用を強調した。
(引用終わり)


2013年版中小企業白書によれば、起業から5〜10年のいわゆる安定・拡大期における企業(少なくとも1期は営業黒字化した段階)の課題は、「質の高い人材の確保」がトップだったようで、グローバル成長型企業の72.9%(成長初期比+10.7%)、地域需要創出型企業の60.9%(同+5.7%)が課題として挙げたようです。他方、資金調達を課題に挙げたのは、グローバル成長型企業の35.6%(同▲20.4%)、地域需要創出型企業の31.1%(同▲17.3%)にとどまり、課題として挙げられた順位も、質の高い人材の確保、新たな製品・商品・サービスの開発、販路拡大・マーケティング、製品・商品・サービスの高付加価値化に次ぐ5番目(全8項目中)にとどまったようです。
以上によれば、安定・拡大期の中小企業の前向きな資金需要に対しては金融機関の融資環境は比較的良好のようにみえます。

他方、資金繰りDIは、2012年4月に▲18.1まで回復した後マイナス幅が拡大に転じ、同年10月の▲25.0を底を打った後、再び回復に転じ、2013年2月は▲21.4となっています。調査主体の全国中小企業団体中央会HPによれば、2013年3月は▲19.2まで回復したようで、4月25日の金融庁全国財務局長会議でも報告されたように、金融円滑化法終了のソフトランディングが図られたようにみえます。

実質的なモラトリアムが続く間に借り手中小企業側が経営改善を果たし、上記のいわゆる安定・拡大期における企業のように、金よりもヒトの方が課題になるようになることが1つの目指す方向といえそうです。

金融円滑化法や事業再生などにつきましては、弊事務所HPの中小企業金融円滑化法事業再生Q&A 金融機関取引の基本 事業再生・倒産編なども適宜ご参照いただければと思います。
posted by kinyu-bengoshi at 23:41| 日記

2013年04月24日

官民ファンド機構支援先企業の2次破綻

「出資先が初の法的整理 官民ファンドの地域支援機構」(日本経済新聞2013.4.23)

(記事引用)
 官民ファンドの地域経済活性化支援機構は22日、経営再建を支援していたアルミ製品加工業のコロナ工業(横浜市)が東京地裁に民事再生手続きを申し立て、受理されたと発表した。前身の企業再生支援機構も含め、支援を始めた後で企業が法的整理になるのは初めて。負債総額は約31億7000万円。
 コロナ工業は2011年に旧企業再生支援機構と伊藤忠プラスチックスの出資を受け、経営の立て直しを目指してきた。支援機構の出資額は約9億円(議決権49%)。当初予想以上に国内需要が減少し、海外売り上げも十分に増やせなかった。地域支援機構は当面はコロナ工業への支援を続け、新たなスポンサーを探す。
(引用終わり)


平成24年度補正予算に基づき3月設立された官民ファンドの地域経済活性化支援機構の前身の企業再生支援機構が平成23年5月に出資により支援した企業が、今般民事再生法適用申請をし、いわゆる2次破綻をしたようです。
企業再生支援機構の支援要件は、3年以内に生産性向上(自己資本当期純利益が2%ポイント以上向上等)と財務健全化(有利子負債/キャッシュフローが10倍以内等)の基準を満たし、3年以内に買い取り債権や株式の処分が可能となること等となっていることから、支援決定から少なくとも3年間は支援を継続するようにも思われたのですが、今回、支援決定からわずか2年弱でこれを断念した形となりますので、若干意外な印象も受けます。
機構出資時の再生スキームは、既存債権45億円のうち23億円をカット(手法は吸収分割による第二会社方式)、機構が約9億円(議決権51%)出資+運転資金1.5億円保証枠設定+経営陣派遣、事業スポンサーとして伊藤忠プラスチックスがDESも含めて約9億円出資、商工中金が3億円の運転資金融資枠設定、などというもので、相当に手厚い支援体制を組んだといえます。
それをもってしても、わずか2年弱で現行スキームでの支援を打ち切らざるを得なくなったということは、よほど売上が上がらずキャッシュフローが不足したということであり、民事再生法下でさらなる債権カットをしたとしても再生は容易ではなく、機構や同社のプレスリリースにもあるとおり、新スポンサーを得てビジネスを抜本的に再構築して売上高増加、キャッシュフロー改善を果たすことが再生の要件になるといえそうです。
機構は当面DIPファイナンスを供給して同社の仕入資金の支援等を行うようですが、一度出資金を毀損させた企業に対してさらに出資する等の本格的な支援をすることは難しいですので、前記の通り、再生の成否は新スポンサーにかかっているといってよいといえます。

地域経済活性化支援機構や企業再生支援機構については、当ニュース解説・コラムの【金融円滑化法】地域活性化支援機構(仮)【金融円滑化法】企業再生支援機構でも触れております。
また、事業再生一般につきましては、弊事務所HPの事業再生Q&A 金融機関取引の基本 事業再生・倒産編なども適宜ご参照いただければと思います。
posted by kinyu-bengoshi at 00:56| 日記

2013年04月23日

仕組債、デリバティブの説明義務(裁判例)

「「仕組み債」の説明不十分 野村に4100万円賠償命じる」(日本経済新聞2013.4.20)

(記事引用)
 「仕組み債」と呼ばれる高リスクの金融商品取引で、リスクに関する事前説明が不十分だったため損害を受けたとして、名古屋市の女性(73)が野村証券に約1億3900万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、名古屋地裁は19日、約4100万円の支払いを命じた。
 上田哲裁判長は判決理由で「債券は内容が複雑で相当リスクがある」と指摘。「原告は経済的知識もなく、担当者の不十分な説明により、債券の性質や特徴を正確に理解できなかった」として、商品販売時の説明義務違反を認めた。
 勧誘自体は適法とし、「資料を配り不十分ながら説明している」と原告側の過失も一部認めた。
 判決によると、女性は2006〜07年、野村証券から計約1億9900万円分の債券を購入。事前にリスクを理解できず、約1億2600万円の損害を出した。
 親会社の野村ホールディングス広報部は「個別事案なのでコメントは差し控える」としている。
(引用終わり)


高齢女性の個人顧客が仕組債投資により被った巨額の損害の一部につき証券会社に賠償を命ずる地裁判決が出ました(名古屋地裁平成25年4月19日判決)。販売した証券会社の説明義務違反を認めたもののようです。
仕組債などの金融商品訴訟では、販売業者の賠償責任の根拠となる不法行為の態様として主に適合性原則違反(金融商品取引法40条)と説明義務違反が問題となります。
販売業者側の賠償責任を認めた裁判例は少なくないですが、顧客側が勝つ場合の1つの共通点として、顧客が高齢者であるということがあるといえます。

適合性原則とは、「証券会社の担当者が、顧客の意向と実情に反して、明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘するなど、適合性の原則から著しく逸脱した証券取引の勧誘をしてこれを行わせたときは、当該行為は不法行為法上も違法となる・・・顧客の適合性を判断するに当たっては、・・・具体的な商品特性を踏まえて、これとの相関関係において、顧客の投資経験、証券取引の知識、投資意向、財産状態等の諸要素を総合的に考慮する必要があるというべきである。」(最高裁平成17年7月14日判決。金商法40条同旨)とされています。個人投資家として十分に場数を踏んできた高齢者もいるとは思いますが、一般に高齢者は、適合性原則にいう「投資経験」や「証券取引の知識」に乏しいといえ、複雑な仕組債やデリバティブを販売する適合性に欠けると判断される傾向にあるといえます。また、高齢者は残りの人生の期間からみてあえてハイリスクハイリターンの投資をする必要性が一般的に乏しく「投資意向」が認められないというところにもつながってきます。特に資産家でもない通常の年金生活者であれば「財産状態」も適合しないということにつながってきます。

また説明義務とは、例えば、「証券会社は、信義則上、一般投資家である顧客を証券取引に勧誘するにあたり、投資の適否について的確に判断し、自己責任で取引を行うために必要な情報である当該投資商品の仕組みや危険性等について、当該顧客がそれらを具体的に理解することができる程度の説明を当該顧客の投資経験、知識、理解力等に応じて行う義務を負うというべきである」(大阪高裁平成20年6月3日判決)などとされており、ここでも「投資経験、知識、理解力」が考慮要素とされています。一般的な高齢者が複雑な仕組債やデリバティブの仕組みやリスクを具体的に理解できる程度の投資経験、知識、理解力等を有していることはほとんどないでしょうから、販売業者が説明義務を果たしたといえるハードルは高いといえます。

本件記事の仕組債が具体的にどのような仕組みの商品であったかはわかりませんが(報道によれば「ノムラ・ヨーロッパ・ファイナンス・エヌ・ブイ」という商品のようですが、おそらく、高利率のクーポン、円安進行によるハイリターンの為替差益(販売時期が2006〜2007年)、野村本体の保証があり高格付、といったところが売りだったのではないかと推察されます)、販売時66歳くらいの高齢女性に約2億円(しかも原資は土地収用による代償金の一時収入の模様)も買わせるというのは行き過ぎといえそうです。

これと逆に、顧客が企業である場合には、高齢者に比べれば上記の適合性原則違反や説明義務違反が認められにくい方向に働くといえそうです(もっとも、日経平均リンク債を買って損害を被った顧客側企業に対する野村證券の説明義務違反を認めて損害賠償を認めた最近の判決(最高裁平成25年1月29日決定)があります(仕組債(日経平均連動)賠償判決(最高裁)ご参照)。
最近、デリバティブの一種である金利スワップについて、高裁では原告顧客企業側勝訴だった控訴審判決が最高裁で破棄されて原告敗訴で確定した裁判があります(最高裁平成25年3月7日判決)。原審福岡高裁では、金利スワップを販売した銀行の説明義務違反が重大であるため、契約は信義則に違反して無効であるとされましたが(福岡高裁平成23年4月27日判決)、最高裁は、「本件取引は,将来の金利変動の予測が当たるか否かのみによって結果の有利不利が左右されるものであって,その基本的な構造ないし原理自体は単純で,少なくとも企業経営者であれば,その理解は一般に困難なものではなく,当該企業に対して契約締結のリスクを負わせることに何ら問題のないものである。上告人は,被上告人に対し,本件取引の基本的な仕組みや,契約上設定された変動金利及び固定金利について説明するとともに,変動金利が一定の利率を上回らなければ,融資における金利の支払よりも多額の金利を支払うリスクがある旨を説明したのであり,基本的に説明義務を尽くしたものということができる。」などとして銀行の説明義務違反を否定し、原告逆転敗訴判決を下しました。判決文で「少なくとも企業経営者であれば」とされているところからみて、原告が企業であるという顧客属性が説明義務違反となるハードルを高める一要因となったといってよいかと思われます。

しかし、大企業ならばともかく、中小企業の場合、経営者や財務担当者が仕組債やデリバティブの仕組みやリスクを正確に理解して投資しているケースの方が少なく、むしろ、銀行が勧めるのだから間違いないだろうという金融機関への盲目的ともいえる信頼や、これだけ勧めているのに下手に断って融資など他の取引に悪影響があると困るという両者の力関係を背景とした漠然とした不安、懸念から、商品の仕組みやリスクをきちんと理解しないまま投資している方が多いといえます。

中小企業としては、円滑な金融機関取引をはかるべきであることは当然ですが、他方で最終的には債権者と債務者という利害対立関係にあることも忘れずに、うまくつき合うことが重要であるといえます。

仕組債やデリバティブの仕組みやリスクなどについては、弊事務所HPの為替デリバティブQ&A 金融機関取引の基本 デリバティブ編や当ニュース解説・コラムの仕組預金を適宜ご参照いただければと思います。
posted by kinyu-bengoshi at 20:19| 日記
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